Think Globally Act Locally

 

自分、家族、友達はもちろん、遠くの誰かに思いを馳せる時間が、豊かな暮らしを支えてくれます。生物多様性という概念に出会って、〝自分にとって心地良いほどほどな暮らしは、みんなをハッピーにする〟ということに気がつきました。


生物多様性ってなぁに?

 

リコーの生物多様性啓発を担当した2008年、生物多様性ってなんだろう?と考えました。学術的には3つの多様性(種、遺伝子、生態系)のことを言いますが、日常とのつながりがわからず、あまりしっくりきませんでした。そして考えた末に出た答えは、生物多様性=地球=自分でした。

 

生物多様性とは、命の物語です。すべての命には役割があって、役割を果たすべき場所があって、それぞれの命が役割を果たしてこそ、その場所が成り立っている、つながっている、進化している、循環している。生物多様性の視点でまわりを見渡すと「要らないものなんてないよネ!」と感じることができます。ちょっと苦手だと思っていたあの人のことも、受け入れることができます。

 

誰もがお母さんから産まれてきました。お母さんのお腹は地球です。人は、その絶対的な安心の中で何をすべきか?を思い出すために、経験と思考を繰り返すのだと思います

 

自分そのまんまでいいのに、〝そのまんま〟を見失っている人が多い時代。もっとも身近な自分の命の軌跡をたどることで、自分の力を信じ、命を大切に、人生をワクワクと過ごす人が増えてくれたらいいな、と思います。


みんな、地球上に存在している

 

人はそれぞれ、必要なものも価値観も、宝物も違います。性格も顔も夢も、信じているものも違います。だけど一つだけ、共通していることがあります。それは、みんな地球上に存在しているということです。宇宙で生活するのも夢物語ではなくなってきましたが、それでも今のところは、みんな地球上に暮らしています。

 

その地球には、たくさんの生き物がいます。人が暮らすずっと前から、3千万種以上の生き物たちが、それぞれの役割を担い、互いに関りをもちながら共存してきました。最初の生命が誕生してから現在に至るまで、たくさんの生き物が誕生し、絶滅し、進化と競争を繰り返し、複雑に絡み合い、変化して、35億年かけてようやく人類が誕生しました。

 

46億年前に地球が誕生し、35億年前に最初の生命が誕生、そして400万年前に人類が誕生しました。この46億年の歴史を1年に置き換えてみると、人類は12月31日の夕方にようやく登場したことになります。まだ、誕生してからほんの数時間の歴史しかありません。産業革命が起きた400年前なんて、23時59分58秒のこと。たったの2秒しか経っていません。その2秒(=最近の50年)の間に、私たち人の手による環境破壊が異常な速度で進んでいます。地球上の生き物の中で、人はどうしようもなくわがままな赤ちゃんのようです。



私たちの中に、35億年の進化の歴史が宿っている

 

人は、誰もが赤ちゃんとしてこの世に産まれました。お母さんのお腹の中で、十月十日、長いようで短い間に、35億年の進化の歴史を繰り返して産まれてきます。お母さんの身体にある一つの細胞(卵子)から始まり、分裂を繰り返して個体が完成します。複雑な地球の進化の歴史が、私たちの体内にも宿っているのです。

 

たとえば、妊娠初期の頃に、胎児がエラ呼吸から肺呼吸へと転換する時期は、今から4億年前に人の祖先が水中生活から陸上に進化したことを繰り返していると考えられています。人の身体が作られるまでと同じく、地球のこれまでの進化は決して省略できるものではありません。


<胎児の進化図>
<胎児の進化図>

生き物は、環境に適応しながら今を生きている

 

地球上の生き物はすべて、長い時間をかけて、絶滅期も体験し、環境に適応しながら懸命に生きてきました。細胞分裂で増えた生き物はよく似た性質を持つため、ある特定の病気や外敵に対して一族が壊滅という危機があります。

雄と雌に分かれ遺伝子がちょっとずつ違うことで、弱かった病気に強いものが産まれました。

 

植物は動けないので、虫を頼る受粉という手段を身に付けました。虫たちに目立つようにキレイな花をつけたり、甘い蜜を用意したり、花粉を運んでもらうために虫を呼び寄せる工夫をしてきました。どれも、それぞれの種が時間をかけてつくりあげた生き残り戦略です。

 

花は虫がいないと存在しないし、虫は花がないと生きていけません。人は一族の血だけでは丈夫な身体が保てません。すべての生き物は、進化と競争を繰り返し、自然環境の変化に適応しながら今を生きています。 



みんな、つながっている 


森に行くと、土がふんわり柔らかい。それは、さまざまな微生物たちが、落ち葉や虫の死骸、糞を分解して、必要な栄養分だけを土に戻してくれるからです。その土に種が落ちて、新しい命が生まれます。植物は太陽の光で光合成を行なうことで体をつくり、その植物を他の生き物が食べます。

 


人も、この循環の中の一部に過ぎず、たくさんの命のつながりによって支えられています。食べもの、水、衣類、住まい、医療、安全、文化…、自然界のものを利用しないものは一つもありません。石油や石炭も、数億年前の森林や生き物の死骸が堆積して化学変化を起こしたことで生まれた物質です。

 

そしてその資源を使って生きている生き物は、人だけです。人は当たり前のようにゴミを出しているけれど、他の生き物は、資源も使わないし、ゴミも出しません。

 

多くの生き物たちの命のつながりが、長い時間をかけて豊かな地球環境を育んできました。私たちの生活はその上に成り立っています。お母さんのお腹の中でたくさんの栄養をもらってこの世界に誕生した私たちは、今度は地球からたくさんの恵みを受けて暮らしているのです。 


私たちにできること


人が、自然のつながりを無視して利益や便利さを追求してきた結果、さまざまな環境問題(=人類問題)となって返ってきています。猛烈なスピードで種の多様性が脅かされています。日々の暮らしや仕事で私たちが選択できるのは、多くの生き物が住む地球環境のおかげ。それを守ることは、私たち自身の未来の可能性を守るということです。

 

個人でできることは、選択のたびにあります。モノを大切に繰り返し使う、石油から出来ているレジ袋を断る、近くの移動には自転車や電車を使う、小さな生き物に影響を与える界面活性剤は使わない、豊かな原生林を伐採して作られた商品を買わない、そして選択する知恵を学ぶ。厳しくやることではなく、誰かに従うのでもなく、自分が今できることをやればいい。

 

お母さんのお腹で守られてこの世界に誕生した私たちは、一人ひとりが人生の主役であり、一人ひとり違って当たり前。そのまんまがいい。大切なのは、何かを選択する時に、立ち止まって考えること。自分の中から出てきた疑問を、流さずに信じること。

 

これは、どこから来たのか?そして、どこへ行くのか?


健全な地球環境がなければ、何も存続しない

 

企業などの組織でできることは、もっとたくさんあります。そもそも健全な地球環境がなければ、人も企業も存続できません。だから、生態系に与えている影響を認識し、配慮し、その取り組みの環を広げ、正しい製品やサービスを社会に提供する努力をする。そんな企業こそ、社会に歓迎される価値があります。資源が無限にあることを前提とした、右肩上がりの成長を目指すことをやめて、有限である資源を大切にした、持続可能な循環型発展を目指す企業はすでに登場しています。目に見える数値にするなど、企業に向けた取り組みも進んでいます。

(参考:TEEBパヴァン・スクデフ氏による“自然に値札をつけろ!


 おわりに


お母さんのお腹は、地球。人は、お母さんのお腹という絶対的な安心の中で、自分だけの役割という宝物をもって産まれてきます。

だから幼い頃は、たっぷり時間をかけて、毎日を、瞬間を、好きなことに夢中になって生きることが何よりも大切だと思います。大人になった時、一人ひとりはちっぽけだけれど、みんなつながっているということを想像するために。そして、自分が遠い祖先からの命のつながりであることを忘れないように。地球の一部であることを忘れないように。そんな、あたりまえに感謝する気持ちを忘れないように、毎日を生きよう。